アーティストが持つ権利を理解しよう(その3後半)

アーティストが持つ権利を理解しよう(その3前半)からの続きになります。

 

③同一性保持権

 

 

著作物のタイトル(題号)とその中身について、著作者の意に反する改変を受けない権利が同一性保持権です。著作物のタイトルそれ自体に著作権はないとされていますが、

同一性保持権の対象にはなるので注意が必要です。

同一性保持権が問題になるケースを音楽の著作物で例えれば、メロディを作曲者に無断で変えたり、歌詞を作詞者に無断で変えたりすることです。

また、主旋律そのものは変えない場合でも、ハーモニーやテンポやリズムを変えたり、対旋律を加えたりするなどの改変を行った結果、

著作者の意に反するものになってしまうと、編曲権の問題とは別に同一性保持権の問題も生じる可能性があります。

なお、改変の意図はなくても、歌唱演奏技術の未熟さや単純ミスなどにより結果として著作者の意に反する改変が行われたケースなど、

むを得ない改変と認められる場合は、この権利は適用されません(20条2項4号。条文省略)。

 

④名誉・声望保持権

 

この規定は、著作者の名誉や声望を害する方法によって著作物を利用する行為を著作者人格権の侵害行為とみなすことで、著作者の人格的利益を保護しようとするものです。

条文自体に「名誉・声望保持権」というタイトルが付けられているわけではありませんが、著作権法の専門家などは、この条文により規定されている著作者の利益ないし権利のことを「名誉・声望保持権」と称しているようです。

この規定により、たとえば、芸術性の高い映画のテーマ曲がアダルトビデオのBGMとして使われることを阻止することができます。

この規定は、著作権者が利用を許諾している場合でも適用されるので、著作者と著作権者が異なることの多い音楽著作物の利用については、利用者も著作権者も十分な注意を払う必要があります。

そういう意味で、音楽出版社は、管理楽曲をCMなど楽曲や著作者のイメージに深く係わるような利用形態への利用を許諾する場合は、著作者の事前の同意を得ることが重要になります。

 

 

【会社概要】
会社名 クリムゾンテクノロジー株式会社
代表者 代表取締役 飛河 和生
所在地 東京都世田谷区池尻2-37-2
URL https://crimsontech.jp/
事業内容 音楽配信ディストリビューション、Voidolシリーズの開発・販売、ソフトウェア受託開発

 

 

アーティストが持つ権利を理解しよう(その3前半)

株式会社デジタルライツ・ラボ 代表取締役   秀間修一

 

今回からアーティスト活動に伴って発生する著作権法上の権利の内容を解説しますが、1回目は、作詞、作曲などの創作活動を行う著作者に対して与えられる権利である著作者人格権と著作権のうち著作者人格権について解説します。

 

著作者人格権とは

著作者人格権は著作者の精神的・人格的利益を保護するためのものです。譲渡することや放棄することはできません。また、著作者人格権を取得するには、なんの手続きも必要ありません。

著作者人格権は著作者の一身に専属するので(著作権法第59条、以下条文は著作権法)、著作者の死亡とともに消滅するのですが、第60条で、著作者が存しているとしたならば著作者人格権の侵害となるような行為をしてはならないと規定し、これに違反すると著作者の遺族から訴えられたり(116条)、罰金刑に処せられたり(120条)することがあるので、実質的には永久不滅の権利といえるでしょう。

 

著作者人格権の内容

著作者人格権には、以下の権利があります。

 

 

①公表権

 

 

公表権は、著作者が、まだ公表されていない著作物をいつどのような形で公表するかを決定する権利です。たとえば、ある著作者が創作した新曲を歌手Aの新しいアルバムに収録して発売することによって公表しようと準備していたところ、これを歌手Bがコンサートで歌ったため先に公表されてしまったような場合に公表権の問題が生じます。

著作物の「公表」とは、発行され、または、著作権者もしくはその許諾を得た者によって上演、演奏、公衆送信などの方法で公衆に提示されることをいいます(4条)。「発行」とは、

公衆の要求を満たすことのできる相当程度の複製物が、著作権者またはその許諾を得た者によって作成され、頒布されることいいます(3条)。

この場合、「公衆」には、不特定の者のほか特定多数の者も含まれます(2条5項)。また、「多数」の概念について、文化庁発行の著作権テキストでは、「何人以上が『多数』かについては、著作物の種類や利用態様によって異なり、一概に何人とはいえません」としています。

公表権は、著作者の同意を得て公表された著作物については消滅します。また、公表前に著作権が他人に譲渡された著作物については、その著作権の行使によって著作物が公表されることについて著作者の同意があったものと推定されます(18条2項1号)。

なお、未公表の著作物を原著作物とする二次的著作物(この用語の意味については、いずれ解説します)を公表する場合は、二次的著作物の著作者の公表権に加え、原著作物の著作者の公表権も働きます。

 

②氏名表示権

 

 

氏名表示権は、著作者が、著作物の原作品に、またはその著作物の利用に際して、著作者名を表示するかしないか、表示するとすればどのような著作者名とするかを決定する権利です。著作物の利用者は、著作者名表示を変更するなど著作者が別段の意思表示を行わないかぎり、その著作物について既になされている著作者名表示にしたがって著作者名を表示すれば、氏名表示権侵害の責めを負いません。

レコード会社がCDのジャケットなどに楽曲の著作者名(作詞者・作曲者名)を印刷したり、ラジオやテレビの歌番組などで音楽が流れるときに、歌手の名前や楽曲のタイトルに加え、その著作者名がアナウンスされたりテロップ表示されたりする背景には、この規定があるのです。

二次的著作物に関しては、二次的著作物の著作者の指名表示権のほかに、その原著作物の著作者の氏名表示権も働きます。

 

アーティストが持つ権利を理解しよう(その3後半)に続きます。

 

 

【会社概要】
会社名 クリムゾンテクノロジー株式会社
代表者 代表取締役 飛河 和生
所在地 東京都世田谷区池尻2-37-2
URL https://crimsontech.jp/
事業内容 音楽配信ディストリビューション、Voidolシリーズの開発・販売、ソフトウェア受託開発

 

SXSW2026出演者募集のお知らせ

CRIMSON MUSICが加盟するILCJより、世界最大級の音楽フェス「SXSW 2026」(アメリカ・オースティン)での出演者募集がスタートしました!

 

CRIMSON MUSIC(運営:クリムゾンテクノロジー株式会社)が加盟するILCJ(Independent Label Council Japan)が、2026年3月に米国・テキサス州オースティンにて開催予定の世界最大級の音楽フェスティバル「SXSW 2026」における出演者募集を開始いたしました。CRIMSON MUSICとご契約いただいているアーティストの皆さまは、応募可能となります。選考を通過された出演者には、現地活動を支援するための最大20万円のサポート費用を支給予定です。

 

なお、本募集はILCJがSXSWに提出するShowcase Proposalに基づき実施されるものであり、ILCJによる選考通過後も、SXSW本部の最終審査を経る必要がございます。最終的に全ての審査を通過したアーティストのみがSXSW 2026への出演権を得ることとなります。現時点では出演が保証されるものではございませんので、予めご理解のほどお願い申し上げます。

CRIMSON MUSICは、契約アーティストの皆さまが国内外の舞台で活躍できるよう、今後も積極的に国際的な活動支援を行ってまいります。

 

 

■詳細はこちら
募集要項:https://sxsw2026--w8l8sl3.gamma.site/
応募フォーム:https://claude.ai/public/artifacts/f838cb82-68f8-4e47-852d-8d66004af7ff

■本件に関するお問い合わせ:ILCJ事務局 info@ilcj.com

 




アーティストが持つ権利を理解しよう(その1)

株式会社デジタルライツ・ラボ 代表取締役   秀間修一



音楽出版事業の株式会社デジタルライツ・ラボは、2024年12月にクリムゾンテクノロジー株式会社のグループ会社になりました。今後、クリムゾンテクノロジーは、音楽アーティストの皆様の収益の最大化を目指し、従来の原盤配信ディストリビューション事業に加え、同社を中心に著作権管理事業を積極的に進めていきます。
そこで、これを機に今回から複数回に分けて音楽アーティストが持つ権利の解説を行いたいと思います。全ての音楽アーティストの方にご理解頂けるように、基本から最新情報まで順を追ってお届けする予定です。アーティストが持つ権利を理解することは、既にアーティスト活動を行っている人はもちろん、これからアーティストを目指そうという人にとっても、権利を活用することによって生じる人格的・経済的利益を最大化するうえで非常に重要なことです。是非最後までお付き合いください。

アーティスト活動から発生する権利の種類
1回目の今回は、アーティストが持つ権利の種類を解説します。 アーティストはさまざまな活動を行いますが、それらを整理すると以下のように分類することができます。アーティスト活動を行うと、多くの場合、著作権法上の権利が生まれます。また、アーティストにはタレントやプロスポーツ選手などと同様に「パブリシティ権」という権利が認められています。
(上記の表の「著作隣接権」には「実演家人格権」と「報酬請求権」が、「著作権」には「著作者人格権」が含まれる。)

タレントとして発生する権利→パブリシティ権
アーティストなどその存在自体に顧客吸引力を有する者には「パブリシティ権」があります。  パブリシティ権は、それを規定する専用の法律はありませんが、2012年に最高裁判所が認めたことにより権利として確立されました。最高裁は、専ら肖像等の持つ顧客吸引力の利用を目的とするといえる以下の3つの類型についてパブリシティ権を侵害する行為であると認定しました。  ①肖像等それ自体を独立して観賞の対象となる商品等として使用すること→ブロマイド写真やグラビア写真などが該当するものと考えられる。  ②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品に付すこと→キャラクター・グッズなどが該当するものと考えられる。  ③肖像等を商品等の広告として使用すること  パブリシティ権が認められたことにより、タレントやプロスポーツ選手など著名人の写真集を出版する場合や、肖像やロゴマークなどを商品の広告に使ったりキャラクター・グッズを製造・販売したりする場合は、本人の許諾が必要となります。

実演活動から発生する権利→実演家人格権・著作隣接権・報酬請求権
アーティストがコンサートやレコーディングや映画出演などで実演を行うと、「実演家」として実演家人格権・著作隣接権・報酬請求権が発生します。著作隣接権は実演家の経済的利益の保護を目的とした権利(財産権)、実演家人格権は実演家の人格的利益の保護を目的とした権利(人格権)です。 このうち著作隣接権は、実演の利用を禁止することのできる強力な権利(許諾権)であるのに対し、報酬請求権は、許諾権ではないので実演の利用を禁止することはできませんが、実演を利用したら報酬や補償金を請求することのできる権利です。 著作隣接権と報酬請求権は他人に譲渡することができますが、実演家人格権は譲渡することができません。レコーディングにおける実演の場合、実演家の著作隣接権は原盤制作者に譲渡されるのが普通です。 なお、実演家がこれらの権利を取得するのに、何らの手続きも必要としません。実演を行うと自動的に権利が発生します(無方式主義)

アーティストが持つ権利を理解しよう(その2)に続きます。


【会社概要】
会社名 クリムゾンテクノロジー株式会社
代表者 代表取締役 飛河 和生
所在地 東京都世田谷区池尻2-37-2
URL https://crimsontech.jp/
事業内容 音楽配信ディストリビューション、Voidolシリーズの開発・販売、ソフトウェア受託開発