アーティストが持つ権利を理解しよう(その3前半)
株式会社デジタルライツ・ラボ 代表取締役 秀間修一
今回からアーティスト活動に伴って発生する著作権法上の権利の内容を解説しますが、1回目は、作詞、作曲などの創作活動を行う著作者に対して与えられる権利である著作者人格権と著作権のうち著作者人格権について解説します。
著作者人格権とは
著作者人格権は著作者の精神的・人格的利益を保護するためのものです。譲渡することや放棄することはできません。また、著作者人格権を取得するには、なんの手続きも必要ありません。
著作者人格権は著作者の一身に専属するので(著作権法第59条、以下条文は著作権法)、著作者の死亡とともに消滅するのですが、第60条で、著作者が存しているとしたならば著作者人格権の侵害となるような行為をしてはならないと規定し、これに違反すると著作者の遺族から訴えられたり(116条)、罰金刑に処せられたり(120条)することがあるので、実質的には永久不滅の権利といえるでしょう。
著作者人格権の内容
著作者人格権には、以下の権利があります。
①公表権

公表権は、著作者が、まだ公表されていない著作物をいつどのような形で公表するかを決定する権利です。たとえば、ある著作者が創作した新曲を歌手Aの新しいアルバムに収録して発売することによって公表しようと準備していたところ、これを歌手Bがコンサートで歌ったため先に公表されてしまったような場合に公表権の問題が生じます。
著作物の「公表」とは、発行され、または、著作権者もしくはその許諾を得た者によって上演、演奏、公衆送信などの方法で公衆に提示されることをいいます(4条)。「発行」とは、
公衆の要求を満たすことのできる相当程度の複製物が、著作権者またはその許諾を得た者によって作成され、頒布されることいいます(3条)。
この場合、「公衆」には、不特定の者のほか特定多数の者も含まれます(2条5項)。また、「多数」の概念について、文化庁発行の著作権テキストでは、「何人以上が『多数』かについては、著作物の種類や利用態様によって異なり、一概に何人とはいえません」としています。
公表権は、著作者の同意を得て公表された著作物については消滅します。また、公表前に著作権が他人に譲渡された著作物については、その著作権の行使によって著作物が公表されることについて著作者の同意があったものと推定されます(18条2項1号)。
なお、未公表の著作物を原著作物とする二次的著作物(この用語の意味については、いずれ解説します)を公表する場合は、二次的著作物の著作者の公表権に加え、原著作物の著作者の公表権も働きます。
②氏名表示権

氏名表示権は、著作者が、著作物の原作品に、またはその著作物の利用に際して、著作者名を表示するかしないか、表示するとすればどのような著作者名とするかを決定する権利です。著作物の利用者は、著作者名表示を変更するなど著作者が別段の意思表示を行わないかぎり、その著作物について既になされている著作者名表示にしたがって著作者名を表示すれば、氏名表示権侵害の責めを負いません。
レコード会社がCDのジャケットなどに楽曲の著作者名(作詞者・作曲者名)を印刷したり、ラジオやテレビの歌番組などで音楽が流れるときに、歌手の名前や楽曲のタイトルに加え、その著作者名がアナウンスされたりテロップ表示されたりする背景には、この規定があるのです。
二次的著作物に関しては、二次的著作物の著作者の指名表示権のほかに、その原著作物の著作者の氏名表示権も働きます。
アーティストが持つ権利を理解しよう(その3後半)に続きます。
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