アーティストが持つ権利を理解しよう(その2)

株式会社デジタルライツ・ラボ 代表取締役   秀間修一



アーティストが持つ権利を理解しよう(その1)からの続きになります。

実演を収録して原盤を制作すると発生する権利→著作隣接権・報酬請求権
 アーティストの実演を収録して原盤を制作すると、「レコード製作者」として著作隣接権(許諾権)と報酬請求権が発生します。
これらはいずれもレコード製作者の経済的利益の保護を目的とした財産権です。実演家にあるような人格権はありません。
なお、音楽業界では、レコード製作者のことを「原盤制作者」と言っており、原盤制作費を負担した者が原盤制作者の扱いを受けます。 原盤とは、レコーディングや原盤利用許諾に関する契約書において、おおむねつぎのように定義されています。
「原盤=録音物として複製、頒布すること、又はその音をネット配信することを目的として制作したもので、アーティストの実演等を収録した編集済みの磁気テープその他の記録媒体をいう。」
この定義のポイントは「編集済み」という点です。編集とは、別々のトラックに録音された音声素材をバランスよくミキシングし、
エフェクター処理等も行い、メディアに応じたチャンネル数(通常は2チャンネル)にすることです。このような作業をトラックダウンといい、トラックダウンを行った音を記録した媒体(マスター・テープ)が原盤です。したがって、マスターテープの完成までに要する費用が原盤制作費ということになります。 レコード製作者が有する著作権法上の権利には、「著作隣接権」と「報酬請求権」があります。いずれも譲渡可能な権利で、実際、レコード製作者がこれらの権利をレコード会社に譲渡しているケースも多くみられます。なお、レコード製作者は、これらの権利のほかに有体物である原盤(マスタテープ)やトラックダウン前のマルチテープの所有権(民法上の権利)も保有します(特にアナログレコーディング時代のマスターテープやマルチテープは財産的価値があります)。
レコード製作者が著作隣接権や報酬請求権を取得する際にも無方式主義が適用されます。

創作活動から発生する権利→著作者人格権・著作権
 アーティストが作詞・作曲・エッセイ・小説など著作物を創作すると、「著作者」として「著作者人格権」と「著作権」が発生します。映画監督として映画製作に関与しても、その映画の著作者となりますが、映画の場合、著作権は映画製作者に帰属するので、著作者は著作者人格権だけを取得することになります。 著作者人格権は著作者の人格的利益を保護する権利で他人に譲渡することはできません。著作権は著作者の経済的利益を保護する権利で、他人に譲渡することができます。日本を含む多くの国では、音楽の著作物の著作権を音楽出版社に譲渡し、その対価としてその著作物から生じる著作権使用料の分配を受けるのが普通です。著作者人格権と著作権の取得にも無方式主義が適用されますので、著作物を創作した時点で自動的に権利が発生します。

 著作権や著作隣接権は、著作物や実演等の利用形態によって細かな権利(これを「支分権」といいます)に分類されます。
次回からは、著作権や著作隣接権の各支分権の内容を解説します。


【会社概要】
会社名 クリムゾンテクノロジー株式会社
代表者 代表取締役 飛河 和生
所在地 東京都世田谷区池尻2-37-2
URL https://crimsontech.jp/
事業内容 音楽配信ディストリビューション、Voidolシリーズの開発・販売、ソフトウェア受託開発